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『今度、海行こうよ!』
あけみは電話の向こうの男性に綺麗な声で、しかし媚びない声でデートの誘いをしていた。
『あ、いいね。いつがいいの?』
『そうだね・・・日曜日なんてどう?』
『うん、わかった!じゃああけみの家まで車で迎えに行くよ。』
電話の相手は28歳会社員。あけみの常連客だ。
あけみは昼間は役所で働き、夜はキャバクラで働いている。俗に言う”ワケあり”な女だった。
お金が欲しいわけじゃない。満たされたい、ただそれだけなのだ。
役所では紅一点だが、誰からも相手にされない。
そう、同じ職場の男たちはアニメの世界にしか興味がない人たちなのだ。
この世界では生きられない。それが、あけみの決断だった。
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こうして日曜日の朝を迎えた。
まぶしい太陽とは裏腹に彼女はなぜか曇っていた・・・・・。
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あけみは未だかつてない想いにその身を包まれていた。それがあけみの顔を曇らせていたのだ。
事の発端は昨日、役所での仕事を終えたときに起きた。
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『あけみくん、ちょっといいかな?この後食事でもどうだい?』
『えっ?あっ、私ですか?あっ、えっ?……えぇ、いいですよ?』
あけみは動揺を隠しきれなかった。初めて同僚に声を掛けられたのだ。一瞬迷ったものの、あけみはついていくことにした。初めて誘われたことが嬉しくて仕様がなかったからだ。
彼の名前はヨシト、あけみの2年先輩だ。彼はアニメという二次元に異様に執着していることを除けば、とてもいい男だった。
こうして、あけみの人生の転機となる食事が始まった。
『それでね、その時ドジッ娘マミたんが………』
『へぇ~そうなんですか~。』
ヨシトの話は実に99,96%がアニメの話題だった。しかし、あけみはそれが苦痛ではなかった。“アニメ”というツールを用いているにせよ、そのベクトルは確実にあけみに向けられているのを感じたからである。
食事が終わりに近づくと、ヨシトの顔が真剣な面持ちになった。
そして、彼はゆっくりとその言葉を発したのだ。
『あけみくん……僕と付き合ってくれないか?』
『えっ!?』
予想だにしないその一言に、あけみは過去の記憶を全て失ってしまいかねない程の衝撃を受けていた。
少し冷静さを取り戻したあけみは、ヨシトに尋ねた。
『そんな…急に…でもどうして私に?あんなにアニメに夢中だったじゃない?』
ヨシトは少し照れくさそうに答えた。
『実は…君が、“筋肉でご奉仕!! マッスルメイド!!”に出てくるキャラにそっくりなんだ!!現実世界に君のような人がいるとは!と気づいてね。それからの僕は君に夢中なのさ。』
『はっ?』
あけみは複雑な想いだった。アニメかよ!?とツッこんでやりたかった。しかし、同時に自分の体を不思議な感覚が包んでいるのを感じた。キャバクラでは満たしきれなかった心が満たされていくようだった。カタチはどうあれ、あけみは初めて同僚の男に愛されているのだ。
『返事は今じゃなくていい。明日の正午に君に電話をするから、その時に返事をくれないか?』
『……えぇ、わかったわ。』
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そして今日、以前した約束を断るわけにもいかず、あけみはキャバクラの常連客と海に来ている。しかし、時間はもうすぐ正午になろうとしていた。
『私はどうしたら………』
その時、
プルルルルルルルルル!!
電話が鳴った!!
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ヨシトではなく職場の先輩のサトルからだった。
(何かしら?) 電話に出ることにした。
『もしもし、あけみくん?実は大変なことが起こったんだ!!』
『どうしたんですか?』
『ヨシトが、、ヨシトが倒れたんだ!』
『何ですって!?』
どうやら、過労で倒れたらしい。あけみは信じられなかった。あんなに生き生きとマミたんを語っていたのに・・・・。
そして、あけみは常連客が海に入って無邪気さアピールをしているのを完全に無視し、しばらくぼーっと海を見ていた。
(もしかして、ヨシトは自分はもう命が短いと知っていた??
言い忘れた私へのアイラブユーをどうしても言うためだけに力を振り絞って一緒に食事をした??
いや、私がかわいそうな女だから死ぬ前に救おうとした??)
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『失って気づくとはこういう事・・・・?』
あけみは海に向かって独り言のようにつぶやいた。その時、波の音が「行っておいで」とささやいているかに聞こえた。
そうよ、私は彼に逢いに行くしかない!
あけみは、胸筋をピクピク動かしてアピールしてくる常連客に「早く車出しなさいよ!」と言い放った。
常連客は意味がわからなかったが、ドMなため恍惚感と共に車で走り出したのだった。
そして、向かった先で待ち受けていたものとは・・・・・・・・・
『サトルさん!ヨシトさんは大丈夫なの!?一体何があったの!?ヨシトさんに何があったっていうのよ!!』
病院に着いたあけみは、ヨシトの病室の前でうなだれていたサトルを見つけると事の次第を問いただした。あけみのものすごい剣幕にサトルは戸惑ったものの、少し興奮した。サトルもまた極度のMだった。
『落ち着いてくれあけみくん!大丈夫だ、命に別状はない。』
命に別状はない……それを聞いて安心したあけみは体の力がフッと抜けていくのを感じた。
『良かった……ヨシトさんは大丈夫なのね?でも過労なんて……どうして?だっていつも“アニメを観るから、マミたんを観るから”って定時に帰っていたじゃない!?』
ヨシトのことを心配していたぶん、大丈夫だとわかるとその気持ちは怒りに変わっていた。
(まったく!人騒がせよ!どうせアニメのイベントに徹夜で参加していたんでしょ!?)
その怒りを発散するために常連客に往復ビンタをし続けるあけみに、サトルは優しく、諭すように言った。
『ヨシトには黙っているように言われたんだが…実はヨシトはもうアニメを観ていないんだ。あけみくん……君に出会ってからね。』
『そんな…』
あけみには信じられなかった。
『でも…でも私に、“マッスルメイド”のキャラに似てるから付き合って欲しいって!』
そう言いながら震えるあけみに、サトルは微笑みながら答えた。
『そんなアニメは無いんだよ。それはヨシトの照れ隠しさ。』
『そ、そん……な…』
サトルは本物のアニメヲタクだ、その言葉に偽りは無い。満たされることのなかったあけみの心は、今ではヨシトからの、そしてヨシトへの想いで一杯だった。その小さな体には収まりきらず、あふれ出た想いはあけみの両目から零れ落ち、頬を濡らしていた。
『早くヨシトに会いに行ってやってくれ。……ところでさっきから気になっていたんだが、そちらのナイスガイはどなたかな?』
サトルはゲイだった。ドMでアニヲタでゲイだった。常連客のアニメのような肉体美に興奮していた。
あけみが常連客に小さく『行けよ。』と言うと、常連客はコクリと力強くうなずいた。彼もやはりMだった。
二人は夜の闇に消えていった。これからきしむベッドの上で優しさを持ち寄るのだろう、だがあけみにはどうでもいいことだった。
あけみがヨシトの病室に入っていくと、ベッドに横たわるヨシトの姿が見えた。
『ごめんなさい、わたし…あなたのこと全然わかってなかった!』
声にならない声で呟くあけみ。すると、目を覚ましたのだろうか、ヨシトの口もまた動いていた。
『テテレ……ピ…ワー……』
テテレピワー!?
その言葉の意味とは!?
『ヨシトさん、何が言いたいの?』
ヨシトは重い口を開いた。秘密にしようかと思っていたが、言うべきだと感じたのだ。
『テレビは・・・・・テレビは観たかい?』
『いいえ、私アニメは観てないわ。』
あけみはヨシトが未だにアニメファンである装いをした。それがサトルへの優しさだった。
『いや、アニメじゃないんだ。ニュース・・・・僕のニュースだ。』
『え?ヨシトさんの?何かやらかしたの!?』
『違う・・・僕はやられたんだ・・・・。今回の入院はそのせいなんだ。サトルには過労って伝えたよ。あいつには心配させたくなかったから・・・・。』
ヨシトは右腕と右足を骨折しているようだった。フツーは過労なんて騙されるものじゃない。
『何があったの!?お願い全部話して!』
あけみは被害妄想があるせいで、既に自分のせいだと思っていた。
だが、それはあながち間違いではなかった・・・・・。
そして、ゆっくりとヨシトは真実を伝えた。
『スナイパーに・・・狙われたんだ。なぜかそいつはキャッツアイの格好をしていたし、今回僕を殺し損ねた経緯からすると、おそらくダメダメなスナイパーなんだと思う。』
『どうして・・・・・ヨシトさん何も悪いことなんかしてないじゃない・・・』
『僕が何をしたのかはわからない・・・・・ただ、その女スナイパーは「これは明日の海デートを楽しむための依頼よ」と言って襲い掛かってきたんだ。依頼内容を言うなんて失格だろ?でも僕はそれが何をさしてるのかわからない。で、その時にちょっと怪我を負ったんだ。』
そう、あけみの頭の中では一つの線が浮かび上がった。
『海デートって・・・まさか!?そんなこと・・・・でもそのスナイパーからヨシトさんはどうやって逃れたの?』
『奴の衣装に名前が書いてあってね。小さく”よしえ”って。「お前、よしえって名前なのか?」って聞いたらすぐさま逃げて行ったよ。馬鹿な奴で助かった。いま捜索中だ。』
『ヨシトさん・・・・ごめんね・・・・』
『何で君が謝るんだい?』
泣き出したあけみと困惑するヨシト・・・・・・果たして・・・・
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落ち着きを取り戻したあけみはゆっくりとその目を開けた。……ヨシトは眠っているようだ。無理も無い、これほどの大怪我をしているのだ。相当無理をして私に全てを話してくれたのだろう。今は眠らせてあげよう。
『行かなきゃいけない…』
あけみは頬の涙を拭い、顔を上げた。その顔はメイクがくずれ、売れないヴィジュアル系のようになっていた。しかし、メイクの下の表情はまさしく修羅であった。
あけみは携帯のリダイヤルから彼に電話をかけた。…あの常連客だ。
『もしもし、あけみくん?どうしたんだい?』
『あの…あなたに聞きたいことがあるの…』
『…?なんだい?』
『《よしえ》のことよ!!』
『なっ!?…………ククク、あいつはどこまで役に立たないんだ。』
常連客の声の雰囲気が急に変わるのがわかった。例えるなら、あんなに清楚でおとなしかったあのコがヤンキーの彼氏ができてそんなにも変わってしまうくらいの変化率だった。
『僕に電話をかけてきたってことは全部わかってるみたいだね?いいだろう、話し合おうじゃないか。30分後に××に来てくれ。…ブツッ。』
一方的に切られてしまった。行かなければ…全て自分の蒔いた種だ。自分の手で決着をつけなくてはいけない。
(私が最初からヨシトさんの気持ちに気づいていればキャバクラで働く必要もなかった。あんな男に出会う必要もなかった。そして、ヨシトさんが傷つく必要もなかった!!)
あけみは確かな覚悟を胸に約束の場所へと向った。
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『待たせたわね。』
あけみが振り返ると、一人の女が立っていた。その女はルパン3世の格好をしていた。
(何なのこの女、バカじゃないの?死ねばいいのに……はっ!!)
あけみはその瞬間理解した。なぜなら胸のところにわりと大きめに《よしえ》と書いてあったのだ。
(こいつがよしえ…こいつが一人で来たということは、あの男、私を始末させるつもりなのね…まぁいいわ、どうせ二人とも決着をつけなくてはいけないんだもの。順番は関係ないわ…)
こうして二人の女の戦いが始まった。
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『……う、う~ん。』
ちょうどその頃病室ではヨシトが目を覚ましていた。
『あけみくん……ん?これは?』
ヨシトが不意に机に目をやると、そこには一通の手紙が置いてあった。確かに見覚えのある文字……それはあけみからの手紙だった。
『こ、これは!…あけみ!!』
その手紙の内容とは……!!
続きが気になるよベイビィ。
手紙にはこう書かれていた。
「ゲリラ戦に行ってきます。世界を・・・そう、あなたと私の世界に革命を起こすの。そのためにはあいつを倒さなきゃいけない。もし・・・私が生きて帰ってこれたら私と・・・・・アーメン。」
それはラブレターと考えてよさそうだ。
『んん・・・・ゲリラ戦って?・・・・あいつって・・・・?』
ヨシトはわからなかった。しかし、信じるしかない。ゲリラ戦って・・サバイバルゲームかな。きっと、帰ってきて抱き合って×××。うぉぉぉぉぉお。
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ヨシトが激しく妄想している頃、あけみとよしえはなぜか良き友になっていた。
『そうなのよ・・・私、スナイパーに向いてないの。だから転職を考えてるの。』
『でも、あなたなかなかの腕だったわよ。』
『あらそう?あんたもね。』
『『ふははははははは』』
二人は大笑いしていた。
あけみはキャバクラで働いていること。よしえはまだ人を殺したことがないこと。お互いが傷の舐め合いをしていた。
『ねぇ、一つだけ聞いてもいい。』
『何?』
『どうして衣装に名前書いてあるの?そんなの相手にバレるじゃない。』
『はっ!・・・・そうか・・だからか・・・・・・私はこうしてアピールしとけば、お偉いさんの目にとまってヘッドハンチングされるかなと思ってたんだけど、こりゃあ失敗ね!』
『『ふははははははは』』
大笑いしている中、あけみはふいに思い出した。そう、常連客の存在だ。あいつを倒さないとヨシトと結ばれないのだ。思い出した理由は目の前で数十分も前から呆然としているあいつがいたからだ。
『あ、チーッス。』
よしえは彼女らしい挨拶をした。
『まったく・・・何やってんだよお前は・・・。』
『何っておしゃべりよ!何なの人の楽しみを奪いやがって!!』
そしてあけみが口を開いた。
『どうしてこんなことしたの・・・・?人傷つけて楽しいわけ?』
『仕方ないだろ?あけみが浮気したんだから。』
『ちょっとあけみ!あなた浮気したの!?』
『よしえはちょっと黙ってて!私は浮気なんてしてないわ。そもそもお前に興味なんかないもの。』
常連客は”お前”と呼ばれただけで満足だった。
『だがもう、俺もあけみに興味なんてないから安心しろ。あの入院野郎と仲良くやればいいさ。俺は目覚めたんだ、男にな。サトルはよかったぜ。』
『でも、私の怒りは収まらないわ!お前に制裁を!』
常連客は背中を向け黙って100万円置いていった。金だけはある男だ。あけみは今までの怒りなんてあっさり忘れ、目の前の大金に尻尾を振って許すことにした。そしてあけみはその中から3万円をよしえに渡した。
『これで新しい衣装買ってね。』
『あけみ・・・・この恩は忘れないわ。またいつか会おうね!』
『うん!』
そういってあけみは急いで病院に戻った。
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終わった……何もかも。これでヨシトさんと思う存分イチャイチャできるのね……じゅる。
あけみは病院へと走っていた。
病院に向かう間、あけみの頭の中はヨシトとの妄想でいっぱいだった。幸せのあまりあけみの口からはヨダレが滴り、あけみが通った後には1本の輝く道が続いていた。一説にはこれがバージンロードの始まりとも謂われている。
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『やだぁ!ちょっと太っちゃったかも!』
『そっか、そりゃ嬉しいね。』
『ちょっと!何が嬉しいのよ!最低!』
『だって俺の大好きなお前の量が増えたってことだろ?』
『やだぁ♡』
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あけみの妄想は膨らむばかりだった。
そうしている間に病院にたどり着いた。先ほどいた場所から病院までは約20kmあるのだが、その距離もかかった時間もあけみにはほとんど感じられなかった。体の疲労もほとんどない。
あけみはヨシトの病室の前に立っていた。
『この扉が私の新しい人生への扉なんだわ!』
そしてあけみはその扉を勢いよく開けた。
『ただいまヨシトさん!私もあなたのことが好………えっ!!??』
あけみは何が起こったのかわからなかった。
なんとヨシトとナースが絡み合っていたのだ。
実はヨシトは手紙を見た後の妄想で体が火照りきってしまい、我慢できなくなってしまっていた。
あけみを見たヨシトは不意に我に返った。
『違うんだあけみ!聞いてくれ!』
何も違わなかった。あけみはすぐさま病室を飛び出した。
(何なの!私はこれからどうしたらいいって言うのよ!)
あけみは自分の居場所を見失っていた。
………………………………数日後………………………………
あけみはある人物に電話を掛けていた。
『あ、もしもしよしえ?……えっ?違う違う、お金返せなんて言わないわよ!……うん、今日はちょっと仕事の依頼なの。ターゲットは…………ううん、やっぱりいいわ。そのかわり……私をあなたの弟子にしてくれない?自分で始末するわ!』
大切なのは『自分がどこにいるか』ではなく『どこへ向かうか』なのだ。
あけみはそれに気づき、自分の道を歩き始めた。
奇しくもあの扉は本当にあけみの新たな人生への扉だったのだ。
そしてこの瞬間、スナイパー界を大きく揺るがすことになる伝説のコンビ『ドッグアイ』が生まれたのだった。
~終わり~
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妄想ふたり
亀梨より山梨
スピッツよりスパッツ
東京より教頭
男の人と目が合う旅に想像妊娠しちゃいます