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その発想はなかったワ…
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『どうしたのS美?何かあった?』

親友のT子が心配そうに尋ねてくる。

さすがに5年目の付き合いともなると顔を見ただけでわかるらしい。

…いや、私が嘘が苦手なだけかもしれない。

とにかく隠し事はできなかった。

『実は昨日ね…』

そう言って私はカバンからあるものを取り出した。

『なっ!?S美、それって!?』

驚きと恐怖と諦めの入り混じった声で叫ぶT子。

当然の反応だろう、なぜならカバンから取り出したそれは…

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『彼がやってきたのは、……そう、ちょうど私がバラをタバコに見立ててポーズを決めていたときだったわ。私も高揚感からか新たな境地に達していたんでしょうね。その時はもう何の羞恥心も感じていなかったわ。……とにかく、その時男の人に声をかけられたの。でもその男を見て私は驚いたわ。だって、その男は……』

『その男は?』

一瞬言葉を詰まらせた私に向かってT子は心配そうに尋ねてくる。

S美は迷った。

T子の笑顔を失うことが怖かった。

この名前を告げることがT子にとってどういう意味を持つのかS美にはわかっていたからだ。

……でも後にはひけないこともわかっていた。

S美はゆっくりとその名をT子に告げた。

 

『“J”だったのよ。』

 

『…“J”!? “J”ですって!!??』

顔中に絶望の色を浮かべるT子。

…そう、“J”とはT子の恋人の名だったのだ。

『そんな…そんなことって……』

そう言ったT子の声は震えていた。

当然だろう。最愛の恋人が出会い系に手を出していたのだ。T子の心の中は裏切られた気持ちでいっぱいなのだろう。

いつもS美を支えてくれていたT子。

そのT子が目の前で涙を必死にこらえ、その体を小刻みに震わせている。

もうこれ以上は……いや、それは『逃げ』に他ならない。

何より、真実はもう少し別のところにある。

T子のためを思うならば全て話さなければならない。

T子はそのうえで判断する必要があるのだ。

私の辛さなど……S美は強く拳を握り、再びその口を開いた。

『最後まで聞いて、T子。まだ続きがあるの。あなたは知らなければならないわ。』

そう言ってS美は昨日起こった全てを語りだしたのだった…

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