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その発想はなかったワ…
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『まーくん!遅かったじゃない!!』

玄関のドアを開けるとキッチンから彼女の怒鳴り声が聞こえてきた。

『ヒーローは遅れて登場するもんだろ?これ、ここに置いとくね。』

僕はそう言いながら彼女に頼まれていたものをテーブルの上に置いた。

『あっ、ありがと。ご飯もうすぐできるから、座って待ってて!』

彼女は振り向かずそう言った。料理から目が離せないのだろう。慌しく動いている。僕は言われた通り座って待つことにした。

 

僕の名前はマサハル、大学2年生だ。

彼女はよしこ。社会人1年生で、某企業で事務をしている。1年前、僕の初めての合コンで出会い、そしてそれを人生で最後の合コンにしたのも彼女だ。それほど運命的な出会いだった。

僕は彼女を愛している。

しかし、僕は見てしまったのだ。

毎晩僕のサイフからお金を抜き出し、『遊戯王カード』を買っているところを……

それでも僕は彼女を愛している。

だが怒りはおさまらなかった。それはいつしか殺意へと変わり、僕の心のなかでどんどん大きくなっていった。そして今日……

 

『できたよー☆……ちょっ!?何よこれ!!??』

料理を運んできた彼女は、僕がさっき机の上に置いたものを見て思わず声をあげた。

無理もない、なぜならそれは……

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『とりあえずご飯にしましょ?せっかくの“卵の姿焼き ファイナルエディション”が冷めちゃうよ?』

僕は彼女の料理が大好きだった。たとえただの目玉焼きを卵の姿焼きと表現してしまう天然な女の子でも大好きだったのだ。今日で彼女の料理を食べられるのも最後か……。そう思うと胸にアツいものがこみ上げてくるのを感じた。

『そうだね、食べようか。うひょう!おいしそう!』

『ふふっ、まーくんたら子供みたい。』

 

最後の晩餐は少しだけ涙の味がした。

 

食事が終わると彼女は唐突に話を切り出した。

『ねぇ、まーくん。この粉少し舐めてみてもいいかしら?私、前から少し興味があったの。売りさばく前にちょっとだけ。ね、いいでしょ?』

舐められてしまえばただの小麦粉だということがすぐにバレてしまう。僕は激しく動揺した。

『バカ!何言ってんだよ!お前コレが何かわかってんのか!?』

 

『………わかってるわよ?』

 

彼女はそう言ってニヤリと笑った。それは先ほど見せた悪意に満ちた顔だった。

その瞬間僕は全てを理解した。そう、彼女は本当に全部“わかって”いたのだ。彼女が遊戯王カードで磨いていた戦略を組み立てる力は、僕の想像を遥かに上回っていた。僕は血の気が引いていくのを感じた。

『ふふっ、マサハル!あんたの考えてることなんて全部お見通しよ!あんたがさっき何も考えずに食べた卵の姿焼きの中には………』

 

マサハルの運命やいかに……!!

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